献血の血が製剤になるまで|遠心分離と温度管理の舞台裏
公開 2026/08/22・更新 2026/09/05
- 全血は遠心分離で赤血球(重い・下)と血漿(軽い・上)に分離。1回の献血が複数の製剤として別々の患者さんに届く
- 保存前白血球除去(LR)で発熱反応などの副作用を減らし、必要な製剤には放射線照射で輸血後GVHDを防ぐ
- 赤血球製剤:2〜6℃で28日。新鮮凍結血漿:−20℃以下で1年。血小板製剤:20〜24℃で水平に振とうしながら6日
- 院内搬送は各製剤の保管温度を保てる容器で。温度の異なる製剤を同じ容器に入れない(日赤の輸血情報)
- 並行して血液型・感染症・NAT検査を行い、合格した製剤だけが供給される
ステップ1:遠心分離で成分に分ける
日本赤十字社によると、全血採血された原料血液は、血液の各成分の比重の違いを利用して遠心分離されたのち、赤血球と血漿に分けられます。ぐるぐると高速で回すと、重い赤血球は下へ、軽い血漿は上へ。その境目に白血球と血小板の薄い層(バフィーコート)ができます。血液が成分の集合体だからこそできる加工で、1回の献血が複数の製剤として別々の患者さんに届く理由もここにあります。「献血した血がそのまま誰かに輸血される」わけではないのです。成分献血の場合は、採血の段階で装置が遠心分離を行い、血漿や血小板だけを集めています(血液は何でできている?・成分献血の仕組み)。
ステップ2:白血球を除き、必要なら放射線を照射する
- 保存前白血球除去(LR):赤血球製剤・血小板製剤・血漿製剤は、保存前にフィルターで白血球を取り除きます。白血球は輸血の主役ではなく、発熱反応や感染症などの副作用の原因になるためです。製剤名の「-LR」はこの処理を示します(LRとは)。
- 放射線照射:血液製剤に残ったリンパ球が患者さんの体内で増殖して組織を攻撃する「輸血後GVHD」を防ぐため、赤血球製剤と血小板製剤には15Gy以上50Gy以下のX線を照射します。照射済み製剤の供給が始まった1998年以降、日本では輸血後GVHDの確定症例は報告されていません(放射線照射と輸血後GVHD)。
- 保存液の添加:赤血球製剤には赤血球の代謝を保つ保存液(MAP液)を加え、28日間の保存を可能にしています。
ステップ3:製剤ごとに「最適な温度」で保管
分かれた成分は、性質がまるで違うので保存条件もバラバラです(厚生労働省の輸血療法の指針・日本赤十字社より)。
| 製剤 | 保存温度 | 保存方法 | 有効期間 | 理由 |
|---|---|---|---|---|
| 赤血球製剤・全血 | 2〜6℃ | 保冷庫で冷蔵 | 28日 | 低温で代謝を抑え、細菌の増殖も抑える。凍結すると赤血球が壊れる |
| 新鮮凍結血漿(FFP) | −20℃以下 | 凍結 | 1年 | 凝固因子の活性を保つ。使用時に37℃で解凍 |
| 血小板製剤 | 20〜24℃ | 水平にゆっくり振とう | 6日 | 冷やすと機能が落ち、静置すると凝集しやすい。常温のため細菌対策が重要 |
血小板製剤は「ずっと揺られ続けている」製剤です。血液センターの血小板保管庫では、多数のバッグが振とう機の上で静かに揺れています(血液の有効期間)。
並行して行われる検査
製剤化と並行して、採血時に取り分けた検査用の血液で、血液型(ABO・Rh)、不規則抗体、感染症の血清学検査、NAT(HBV・HCV・HIV・HEVを1人分ずつ)、生化学検査が行われます。検査に合格した製剤だけにラベルが貼られ、供給可能な在庫になります。不合格の製剤は供給されません。検体の一部は11年間保管されます(NAT検査とは・検体保管)。
ステップ4:温度を守ったまま病院へ
医療機関からの注文に応じて、血液センターから製剤を供給します。輸送中も製剤ごとの温度を保つ専用の容器と車両を使い、緊急時は24時間体制で届けます。医療機関の中でも温度管理は続きます。日本赤十字社の輸血情報では、院内搬送には各製剤の保管温度を保てる搬送用容器を使い、保管温度が異なる製剤を同じ容器に入れて運んではならないとされています。赤血球と血小板を同じ箱に入れたら、どちらかの温度が狂ってしまうからです。医療機関では、輸血の直前に患者さんの血液と適合試験(クロスマッチ)を行います(輸血前の適合試験)。
採血から供給までの時間
採血された血液は保冷されて血液センターに運ばれ、当日〜翌日に製剤化と検査が進みます。検査結果が出て合格した製剤が供給可能になるまで数日。有効期間が6日しかない血小板製剤は、検査と製剤化を急ぎ、できるだけ早く供給されます。つまり血小板製剤は「今週の献血が今週の患者さんに使われる」製剤です。赤血球製剤は28日の有効期間のうち、供給までの数日を除いた期間が医療機関で使える時間になります。
「血液は生もの」を支える人たち
採血から患者さんまで、血液は一度も適温を外れることなくリレーされます。血液センターの製剤部門では、遠心分離機、白血球除去フィルター、放射線照射装置、温度管理された保管庫、振とう機が24時間稼働し、検査部門と連携して製剤を送り出しています。献血者の目に触れない工程ですが、ここで血液の「質」が守られています。検査(NAT)・白血球除去・放射線照射と合わせて、この温度のリレーが輸血の質を守っています(血液製剤の種類・献血された血液はどう使われる?)。
よくある質問
Q. 献血した血液はそのまま輸血されるのですか?
A. いいえ。全血献血の血液は遠心分離で赤血球と血漿に分けられ、白血球を除去し、成分ごとの製剤として別々の患者さんの治療に使われるのが基本です。
Q. 血小板製剤はなぜ揺らしながら保存するのですか?
A. 血小板は20〜24℃の室温で水平に振とうしながら保存するのが公式基準です。冷やすと機能が損なわれ、静置すると凝集しやすいためで、有効期間も6日間と短めです。
Q. なぜ白血球を除くのですか?
A. 白血球は輸血の主役ではなく、発熱反応や感染症などの副作用の原因になるためです。保存前にフィルターで除去し、製剤名に「-LR」と表示されます。
Q. 放射線を当てた血液は安全ですか?
A. 安全です。残ったリンパ球を無力化して輸血後GVHDを防ぐための照射で、製剤が放射線を出すことはありません。1998年以降、日本では輸血後GVHDの確定症例は報告されていません。
Q. 献血から患者さんに届くまで何日かかりますか?
A. 検査と製剤化を経て数日で供給可能になります。有効期間6日の血小板製剤は特に急いで供給されます。
Q. 病院での保管も血液センターと同じですか?
A. 同じ温度基準で管理されます。院内搬送では各製剤の保管温度を保てる容器を使い、温度の異なる製剤を同じ容器に入れないことが日本赤十字社の輸血情報で求められています。
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