自己血輸血とは?手術前に自分の血を貯める仕組みと献血との違い
公開 2026/08/22・更新 2026/09/05
- 自己血輸血=患者自身の血液を採取し、自分の手術で使う。同種血(他人の血液)輸血の副作用や感染リスクを回避しうる「最も安全な輸血療法」(厚労省の指針)
- 3方式:貯血式(手術前に採血して保存)、希釈式(手術直前に採血し代わりに輸液)、回収式(手術中・後の出血を回収して戻す)
- 向いている:出血量が予測できる待機的手術(整形外科、心臓血管外科、泌尿器科、産科など)、まれな血液型や不規則抗体を持つ患者
- 限界:緊急の大量出血や貯血する時間のない手術では使えない。貧血が強い患者は貯血できない
- 献血のルール:自己血輸血は「輸血歴」に当たらず、献血制限の対象外。手術自体の延期期間は別途適用
自己血輸血とは
自己血輸血は、患者さん自身の血液を採取して、その患者さん自身の手術で使う輸血法です。厚生労働省の「輸血療法の実施に関する指針」は、院内での実施管理体制が適正に確立している場合、他人の血液(同種血)輸血の副作用を回避し得る「最も安全な輸血療法」であり、待機的手術(予定手術)で積極的な推進が求められるとしています。他人の血液を使わないため、血液型の不適合、輸血後の発熱やアレルギー、感染症のリスク、輸血後GVHDなどを原理的に避けられます。また、献血血液の使用を減らすことで、血液の安定供給にも貢献します。
3つの方式
| 方式 | やり方 | 向いている場面 |
|---|---|---|
| 貯血式 | 手術の数週間前から、1〜2週間ごとに400mL程度ずつ採血し、保存しておく。手術で必要な量(通常800〜1,200mL)を数回に分けて貯める | 出血量が予測できる予定手術。最も一般的な方式 |
| 希釈式 | 手術開始直前(麻酔導入後)に採血し、代わりに人工膠質液などを輸注して血液を薄めておく。手術中の出血は薄まった血液で済み、終盤に採っておいた濃い血液を戻す | 貯血の時間がない場合、貯血式と併用 |
| 回収式 | 手術中・手術後に出血した血液を専用装置で回収し、洗浄して赤血球を戻す | 心臓血管外科、整形外科の大手術など出血量が多い手術 |
これらは組み合わせて使われることもあります。どの方式を使うかは、手術の種類、予想出血量、患者さんの状態、医療機関の設備で決まります。
向いている手術・患者さん
- 出血量が予測できる待機的手術:人工関節置換術、脊椎手術、心臓血管外科手術、前立腺や子宮の手術など。
- まれな血液型の患者さん:同じ型の血液を探す必要がなくなる(まれな血液型とは)。
- 不規則抗体を持つ患者さん:適合血が見つかりにくい場合に特に積極的な適応(不規則抗体とクロスマッチ)。
- 同種血輸血を避けたい患者さん:宗教上の理由などで他人の血液を受けたくない場合の選択肢(回収式は受け入れられないこともある)。
- 妊婦:前置胎盤など大量出血が予想される帝王切開で貯血式が使われることがある。
貯血式の流れ
- 主治医が手術の予想出血量から必要な自己血の量を決める。
- 手術の3〜5週間前から、1週間以上の間隔で400mL程度ずつ採血。採血基準は献血に近く、ヘモグロビンが一定以上あることが条件。
- 採血後は鉄剤を服用し、場合によってはエリスロポエチン(赤血球を増やすホルモン)を注射して、造血を促す。
- 採った血液は医療機関で保存(液状で最長35〜42日程度、凍結すればより長期)。
- 手術当日、必要に応じて自己血を輸血。余った自己血は他人には使えず、廃棄される。
採血のたびに献血と同じような体調の確認があり、貧血が強い患者さんは貯血できないことがあります。採血の負担と手術までの回復を考えて、計画的に行われます。
限界:自己血だけでは足りない場面もある
- 緊急の大量出血や、貯血する時間のない緊急手術では使えない。
- 予想を超える出血が起きた場合は、同種血輸血が必要になる。
- 貧血や心臓病などで採血自体が負担になる患者さんには適さない。
- 余った自己血は他人に使えないため、貯めすぎは無駄になる。
自己血輸血と献血は、対立するものではなく補い合う関係にあります。予定手術で自己血輸血が普及すれば、献血血液を緊急時やがん治療など本当に必要な場面に回せます(献血された血液はどう使われる?)。
献血との違い
| 献血 | 自己血輸血 | |
|---|---|---|
| 誰のための血か | 見知らぬ患者さんのため | 自分自身の手術のため |
| 誰が採るか | 日本赤十字社の血液センター(献血ルーム・献血バス) | 手術を行う医療機関 |
| 検査 | 感染症検査・NATなど輸血用の全検査 | 自分に戻すため感染症検査は簡略化されることがある。取り違え防止の管理が重要 |
| 費用 | 無償(献血者は費用なし) | 医療行為として保険適用(患者負担あり) |
| 余った血液 | 他の患者さんに使われる | 他人には使えず廃棄 |
| 献血ルールとの関係 | — | 「輸血歴」に当たらず、その後の献血制限の対象外 |
自己血輸血をした後の献血
献血のルールでは、輸血歴のある方は献血できませんが、これは他人の血液を受けた場合の話です。自己血輸血は「他人の血を受けた」ことにならないため、この制限の対象外です。ただし、手術そのものによる延期期間(開胸・開腹・開頭の大手術は6か月、その他は種類と時期で判断)や、手術の原因となった病気の基準は別に適用されます。自己血の採血で貧血気味になっている場合は、ヘモグロビンが回復してからになります(輸血歴と献血・手術の後の献血)。
輸血の説明で必ず触れられる選択肢
厚生労働省の指針は、輸血の説明と同意の際に「自己血輸血の選択肢」を説明項目に含めています。予定手術で輸血の可能性があると言われたら、「自己血輸血はできますか」と主治医に聞いてみてください。手術の内容・患者さんの状態・医療機関の体制によって可否が決まります(輸血の同意で説明される8項目)。
よくある質問
Q. 自己血輸血をすると献血できなくなりますか?
A. なりません。輸血歴による献血制限は他人の血液を受けた場合の話で、自己血輸血は対象外です。手術そのものの延期期間は別に適用されます。
Q. 自己血輸血は誰でもできますか?
A. 手術の内容・患者さんの状態・医療機関の体制によります。予定手術の場合に主治医と相談して決まります。貧血が強い方や緊急手術では使えないことがあります。
Q. 自己血輸血の3つの方式とは?
A. 貯血式(手術前に採血して保存)、希釈式(手術直前に採血し代わりに輸液)、回収式(手術中・後の出血を回収して戻す)です。組み合わせて使うこともあります。
Q. なぜ「最も安全な輸血」と言われるのですか?
A. 他人の血液を使わないため、血液型不適合、発熱やアレルギー、感染症、輸血後GVHDなどのリスクを原理的に避けられるからです(厚労省の指針)。取り違え防止の管理は必要です。
Q. 余った自己血は他の人に使えますか?
A. 使えません。自己血は本人専用で、余った分は廃棄されます。貯めすぎないよう、予想出血量に合わせて計画されます。
Q. 自己血輸血が普及すれば献血は不要になりますか?
A. なりません。緊急の大量出血やがん治療の輸血には献血血液が必要です。自己血輸血と献血は補い合う関係で、自己血の普及は献血血液を本当に必要な場面に回すことにつながります。
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