人工血液はまだ作れない?研究の現在地と献血が必要な理由
公開 2026/08/22・更新 2026/09/05
- 公式見解:「輸血用血液は人工的につくることができない」「現在の医療では献血が必要不可欠」(日本赤十字社・血液センター)
- 人工赤血球(人工酸素運搬体):ヘモグロビンを脂質の膜で包んだ製剤などが研究され、日本で臨床試験が進行中。血液型を問わず長期保存できる可能性
- iPS細胞由来血小板:国内で研究・臨床研究が進む。血小板不応の患者さん向けから
- 実験室で一度に作れる赤血球は「血液一滴」程度(日赤広報)。量産・コスト・安全性の壁
- 血漿・免疫グロブリン・凝固因子などは人工では代替できない。全国で1日約3,000人が輸血を受け、毎日の献血が必要
公式見解:「血液は人工的に造ることができない」
日本赤十字社や血液センターは一貫して「輸血用血液は人工的につくることができない」「現在の医療では、血液を人工的に作ることができないため、献血が必要不可欠」と説明しています。これが現在の医療の大前提です。血液は赤血球・白血球・血小板・血漿という性質の異なる成分の集合体で、それぞれが複雑な機能を持つため、「血液そのもの」を丸ごと作る技術はありません。研究されているのは、赤血球の「酸素を運ぶ」機能や血小板の「止血する」機能を、部分的に代替する製剤です(血液は何でできている?)。
研究の現在地
| 分野 | アプローチ | 段階 | 課題 |
|---|---|---|---|
| 人工赤血球(人工酸素運搬体) | 献血血液や期限切れ血液から取り出したヘモグロビンを脂質の膜(リポソーム)で包み、酸素を運ぶ製剤にする。血液型を問わず、常温で長期保存できる可能性 | 日本で臨床試験(人への投与試験)が進行中 | 量産、コスト、体内での持続時間、安全性の確認。原料に献血血液を使う設計のものもある |
| iPS細胞由来血小板 | iPS細胞から巨核球を作り、血小板を産生させる | 国内で臨床研究が行われ、血小板輸血不応の患者さんへの投与例がある | 1回の輸血に必要な血小板数(数千億個)の量産とコスト |
| iPS細胞由来赤血球 | iPS細胞から赤血球を分化・成熟させる | 基礎研究段階 | 脱核(核を抜く)工程の効率、1回の輸血に必要な2兆個規模の量産 |
| 血漿の代替 | アルブミン製剤の一部は遺伝子組換えで製造可能。凝固因子製剤も遺伝子組換え製剤がある | 一部実用化 | 免疫グロブリン(抗体の集合体)は人工では作れず、献血血漿が唯一の原料 |
でも、作れる量は「血液一滴」
日本赤十字社の広報記事によると、実験室レベルで一度に造ることができる赤血球の量は「血液一滴」程度。輸血1回に必要な量とは桁違いで、「それが実現するのは、ずっと先のことになりそうです。だから今は、輸血用血液を確保するために、皆さんの献血が必要なのです」と結ばれています。赤血球製剤1単位(200mL献血由来)には約1兆個の赤血球が含まれます。iPS細胞から赤血球を作る研究では、この量を安定して、安全に、現実的なコストで作ることが最大の壁です。
人工血液ができても献血が要る理由
- 代替できない成分がある:免疫グロブリン製剤は、多くの献血者の血漿に含まれる多様な抗体を集めて作る医薬品で、人工的に再現できません。免疫不全や自己免疫疾患の治療に不可欠で、世界的に需要が増えています(血漿分画製剤と国内自給)。
- 量産とコスト:仮に人工赤血球が実用化されても、年間数百万単位の輸血用赤血球をすべて置き換えるには、製造設備とコストの壁があります。当面は緊急時(血液型判定前の大量出血、災害、離島や戦場など血液が届かない場所)での使用が想定されています。
- 安全性の確認:新しい製剤は長期的な安全性の確認に年単位の時間がかかります。
- 原料としての献血:人工赤血球の一部は、献血血液や期限切れの赤血球製剤からヘモグロビンを取り出して作る設計です。人工血液が献血を不要にするのではなく、献血血液をより長く・広く使えるようにする技術として位置づけられています。
「いま」の患者さんを支えられるのは献血だけ
血液は長期保存もできないため(赤血球28日・血小板6日)、研究の完成を待つ間も、毎日の献血が必要です。全国で1日平均約3,000人が輸血を受けています。がんの治療、手術、出産、事故——今日輸血を必要とする患者さんに、10年後の技術は間に合いません。未来の技術に期待しつつ、いまできる協力を。近くの献血会場は献血マップから探せます(血液の有効期間・献血された血液はどう使われる?)。
研究を支えているのも献血
人工赤血球やiPS血小板の研究には、比較対象や原料として献血血液が使われています。有効期限切れなどで輸血に使えなかった献血血液が、同意のもとでこうした研究に提供される仕組みがあります。あなたの献血は、今日の患者さんを支えると同時に、明日の技術の材料にもなっています(献血血液の研究利用)。
よくある質問
Q. 人工血液は実用化されていますか?
A. されていません。人工赤血球の研究は臨床試験段階まで進んでいますが、実験室で一度に作れる量は血液一滴程度で、実用化はまだ先と日本赤十字社が説明しています。
Q. iPS細胞で血液は作れないのですか?
A. 血小板などの研究開発は国内外で進められ、臨床研究で患者さんへの投与例もありますが、輸血医療を献血なしでまかなえる段階にはありません。現在の医療は献血に支えられています。
Q. 人工血液ができたら献血は不要になりますか?
A. なりません。免疫グロブリンなど人工で代替できない成分があり、仮に人工赤血球が実用化されても量産・コスト・安全性の課題があります。人工赤血球の一部は献血血液を原料にする設計でもあります。
Q. 人工血液はどんな場面で使われる想定ですか?
A. 血液型判定前の大量出血、災害、離島や血液が届かない場所など、緊急時の使用が主に想定されています。通常の輸血を置き換えるものではありません。
Q. 研究に献血血液は使われていますか?
A. 使われています。人工赤血球の原料や研究の比較対象として、同意のもとで輸血に使えなかった献血血液が提供される仕組みがあります。
Q. 毎日どのくらいの人が輸血を受けていますか?
A. 血液センターの説明では全国で1日平均約3,000人です。今日輸血を必要とする患者さんに、将来の技術は間に合いません。
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